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~「ごく簡単なことです」
とラリーは溜息をつきながら答えた。
「人殺しでもなくて、誰がジェリーにアホウドリなんかくれるもんですか」~
これは、作者であるジェラルド・ダレルが、
自身の少年時代にギリシアのコルフ島で過ごした5年を回想して書いた本です。
末っ子のダレルは「異常」なほど動物好きの作者自身。
彼は、隙さえあれば家族の目を盗み、サソリから蛇からカササギまで、
ありとあらゆる動物を家の中に持ち込んで飼おうとします。
皮肉屋の長兄ラリーは、「アレキサンドリア四重奏」で 知られる作家、ロレンス・ダレル。
そこにファッション好きの姉のマーゴと銃オタクで喧嘩っぱやい兄レズリー、変わり者家族をまとめる母は、懐深いが故に一番の被害者となります。
彼らを中心に、 奇妙奇天烈な「友人」達や、動物たちが加わり
「いやいや絶対にあり得ない」と思うような抱腹絶倒の騒動が次々と巻き起こります。
こんな奇跡のような冗談のような事件が起こってしまうのは、やはりギリシアの当時の自由な空気によるところが大きいのでしょうね。
私は、ギリシアの海を、風を、動物たちを、オリーブの木々を一度も見た事がないというのに、その光景が目の前に広がっていきます。
それと同時に、自分の幼い日のおぼろげな記憶、光、匂い、音。様々な感覚が呼び覚まされ、混ぜこぜにして、既視感のように感情を揺さぶってくるのです。
ページを繰るたびに、金色に輝く夢のような日々を私たちは、ダレルとともに追体験し、
大笑いし、高揚を覚え、そしていつしか旅の終わりへとたどり着きます。
訳者池澤夏樹は、この本が幸福の典型的な例をかいたものであると。
あとがきに書いています。楽しかった日常が終わってしまう瞬間は、自分の力ではどうにもできない事が多くないでしょうか。一生に何度も、そんなことを繰り返しながら人は生きていくわけですね・・。
普段本を読まない私が言っても、まるで説得力はないのですが、
この本だけは、絶対に皆に読んでほしい。と願う、一冊。
とにかく、貸しまくりたくたくなるんですよね。下手したら買い与えるくらいの勢いです。
この幸福を共有したい、この面白さを共有したい、だいたい、これが面白くないヤツとはつきあいたくない。
そんな風に、子供のころから、ずーっと。としをとっても変わらず一番好きな本です。
ここしばらくは、おそらく絶版になっていたと思います。
先日ふとamazon検索していると、2014年に中公文庫から復刊になっていました。訳者池澤夏樹氏のあとがきも加わっており、そこにはこうありました。
「(略)そこで何より大事なのはこの本の価値観を共有できることだ。ダレル一家のおかしな面々のことを語り合って、人生はまずもって愉快なものという考えを互いに確認できる。もしも今はそうでないとしても愉快な日は必ず来る。」
価値観の共有。そう、それがこの本をすすめる理由。そして、後半、「もしも今はそうでないとしても愉快な日は必ず来る。」名言じゃない?私・・・ちょっと泣きそうになりました。
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新文庫本は、少し字体がはっきりして、読みやすい感じになりました。昔の文庫って、文字が小さくて細くてちょっと読みづらいんでね・・助かります。それに、よく持ち歩いたのでカバーも外れてしまい、ぼろぼろになっていたのです。
この本をカバンに入れているだけで、ポケットの中に金色の甘い果物をいれているような。そんな気持ちにさせてくれるのです。
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「積みすぎた箱舟」も実は買いました。これはダレルのその後の大人になってからのお話です。確かハードカバーが家にあったと思うのですが、改めて文庫を買いました。
久しぶりに読み返して、夏休みの気分に浸ろうかなと思います。
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